華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
ただ宙を見つめるだけの私と目を合わせることなく、セイディーレは俯きがちに制帽を被り直しながら、抑揚を抑えた声で言う。


「また会いたいなんて、願うのはやめろ」


ズキン、と胸に痛みが走った。

切なさが押し寄せる私に構わず、彼はすぐに小屋を出ていく。パタンと閉まるドアの音を聞いて、一気に身体から力が抜けていった。

会いたいと願うことすら許されないの? あなたはもう、私と会う気はないのね……。

でも、去り際に見えた彼の顔が、ほんの少し苦しげに歪んでいるように見えたのは気のせい?

彼の表情や声が、頭にこびりついて離れない。掴まれていた手首も、触れられた脚も、身体中が熱い。

どうして、あんなことをしてまで私を突き放すのだろう。なんだか、無理に嫌われようとしているみたいだった。


「どうして……」


ぽつりと呟いた声が、起きる気配のないマジーさんのいびきと重なる。

ベッドに倒れたまましばらく考えてみても、セイディーレの気持ちがわかるはずもなく、いつの間にか私も目を閉じていた。




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