華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情

盗まれた大切な思い出


……暖かくて、明るい。それと、カチャカチャとなにか作業する音が耳に入ってきて、重い瞼を開いた。

窓から差し込む日差しによって、わずかな埃が舞っているのが見える。

そうか、昨日は私、あのまま……。いけない、マジーさんを気にせず寝ちゃってた。

ガバッと起き上がり、小屋の中を見回すけれど誰もいない。マジーさんも、当然セイディーレの姿もない。

昨日のことを思い出して、胸がちりっと痛むのを感じつつ、音が聞こえてくる続き部屋のほうに歩いていく。

ドアのない入り口からひょいっと顔を出して覗くと、作業台でたくさんの薬品らしきものを扱うマジーさんがいた。

眼鏡をかけて作業する彼は、とても真剣な表情をしていて、昨日の酔った姿とは別人のよう。

興味津々で見る私に彼も気づき、にこっと笑顔を見せてくれる。


「おぉ、起きたかい。昨日はいつの間にか寝ちまってたよ、すまんね」

「いえ! 私こそ、図々しくベッドを使っちゃってすみませんでした」


軽く頭を下げると、マジーさんは手を振りながら、「最初から使ってもらうつもりだったからいいんだよ」と、当然のように言った。

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