華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
そうだったんだ……。ハーメイデンでは山賊の話は聞かないから、そんな盗賊がいるだなんて頭になかった。

知ってしまうと、ちょっと怖い。帰りも無事にたどり着けるだろうか。

急激に不安が襲ってくる私に気づいてか、マジーさんは「もし、会っちまったときのために……」と言いながら席を立つ。

奥の部屋でなにかを探していた彼は、容量は二百ミリリットルほどありそうな茶色の瓶を持ってきた。中には粉のようなものが入っている。


「この粉末を持っていくといい。相手にかけると、一時的に涙が止まらないくらい目が痛くなる」


したり顔で渡されたそれは、どうやら目つぶしの薬らしい。

さすが、こういう危ない薬も作っているのね。でも、とても心強い。昨日からお世話になりっぱなしだ。

ありがたく薬を受け取り、心から感謝する。


「なにからなにまで、本当にありがとうございます」

「礼には及びませんぞ、姫」


うやうやしく言うマジーさんがおかしくて、私はふふっと笑いをこぼした。

たったの二日間だけれど、とても素敵な出会いに恵まれた冒険だったな。セイディーレとは、なんとも後味が悪いお別れになってしまったけれど。

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