華麗なる最高指揮官の甘やか婚約事情
お父様も以前からマジーさんと面識があったようで、薬を作ってもらったことを話すと、『マジルヴァにも礼をしよう』と言っていた。

彼は想像以上に偉大な薬師なのかも、と尊敬しながら花瓶に花を活けていると、「リルーナ」と呼ぶ声が耳に入る。

ベッドのほうを振り向けば、若干険しい表情になっているお父様が口を開いた。


「もし今度またこういうことがあっても、二度と危険を冒すような真似はするでないぞ。ひとりで城を出るなんて、言語道断だ」


あぁ……またお説教? 私がひとりでクラマインへ行ったことがバレたときにも怒られたけれど、あのときはまだ弱っていたから、本格的に今怒ることにしたのかな。

でもそれは覚悟していたし、自分の行動を後悔もしていないから、なにを言われようとへっちゃらなんだけど。

右から左へ聞き流そうかな、なんて思いつつしれっとしていると。


「だが……ありがとう」


期待していなかった感謝の言葉が聞こえてきて、私は目を丸くした。

お父様が私に“ありがとう”と言うなんて、初めてに近いんじゃないだろうか。

彼は資料を枕元に置き、髭と同じグレーのくせ毛をぽりぽりと掻くと、少し気まずそうに目を伏せて心の内を吐露し始める。

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