アフタースクールラヴストーリー

部屋の時計は午後十一時を指していた。
いつもならもう、電気を消して寝る時間だ。
しかし私は、未だにベッドの上に座りこんでいた。

「あの時、どうなっていたんだろう……」

お気に入りのぬいぐるみを抱きかかえながら、今日の出来事を回想する。
私は生徒会で処分するための冊子を運んでいる途中、階段で足を滑らせた。
それを助けてくれたのが久田先生。
そこで偶然、久田先生に私が抱きしめられる形になってしまった……気がする。
咄嗟のことだったから私もよく覚えていないし、久田先生も必死だったのだろう。
“抱きしめられた”という事実を考えればそれはそれで問題だけど、私を助けるためであるから仕方ないと思う。
私もそれに関してはそこまで気にしていない。

問題は、その時の私の感情だ。
抱き寄せられている間に感じた、久田先生の体温……、スーツ越しに伝わった体つき……、そして微かに聞こえた呼吸の音……。
私は、久田先生を一人の男性として意識してしまった。

久田先生は出会った時からとても話しやすくて、授業の後などにも会話をしに行っていた。
けどそれは恋とかではなくて、純粋に久田先生と話がしたかっただけ。
幼馴染の優君と話しているのと同じ感覚だった。

でも、今日は違う。
先生に助けられた後、私は先生の目を見ることができなかった。
先生とまともに話すことができないくらい、心臓の高鳴りが激しかった。
最後は二人でいることに耐え切れなくなり、お礼も言わず逃げるようにして校舎へと戻ってしまった。

「何やっているんだろう、私……」

持っていたぬいぐるみを更に強く抱きしめる。
自分の身体が、熱くなっていくのが分かった。

私は久田先生を「好き」になってしまったのだろうか……。

今まで私は、誰かを好きになったことはない。
友達には誰かと付き合っている人はいるけれど、自分が誰かを好きになって、誰かと付き合うなんてまだ先だと思っていた。
だからこうして恋愛について考えたこともなかったし、今日感じた気持ちが久田先生を好きだということに繋がるかどうかも分からない。

「はあ……」

悶々としたまま私はベッドにうつ伏せになる。暫く考え込んだが答えは出ず、そのまま眠り込んでしまった。

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