アフタースクールラヴストーリー
朝、僕は海岸線の波の音を聞きながら、自転車を漕ぐ。
今日は、波の音がいつもより少し激しい。
そう感じながら海岸線を越えた先にある坂を登っていると、一人の女子生徒の後ろ姿が見えた。
最初は遠目で誰かよく分からなかったが、近づくにつれてその女子生徒が副崎だと認識できた。
「おは……」
声をかけようとしたが、昨日の出来事が頭に浮かび、一旦立ち止まる。
結局あの後彼女を引き留められず、僕も片づけなければならない仕事があったので職員室に戻ってしまった。
昨日のゴミ捨て場までの彼女の様子は、今考えても明らかにおかしかった。
大丈夫と言っていたものの、どうしても気になる。
何か気に障るようなことがあったのかと不安になるし、そうでなくともどこか体調が悪かったのではないかと心配になる。
正直、声をかけ辛い。
しかしこのまま何も言わずに追い抜いていくのも……。
声をかける寸前まで来ていた彼女と距離が、いつの間にかかなり開いている。
ええい、何を迷っているのだ。
ここは教師として、元気に挨拶をするべきなんじゃないのか。
僕は再び副崎に駆け寄り、とびっきりの笑顔で声をかける。
「おはよう、副﨑」
「へっ? あ、先生。お、おはようございます……」
おたおたした様子で、前髪を整えながら挨拶を返す副崎。
心なしか顔も赤い。
「あの、昨日のことなんだけど……」
「えっ、き、昨日のことですか⁉ 大丈夫ですよ、一晩寝たら疲れもとれたみたいで……。今日も私は元気です! あはは……」
確かに昨日よりは顔色は良くなっているみたいだが、どうもまだいつもの彼女ではない気がする。
それだけ彼女も昨日の出来事を気にしているということなのか。
「そ、それより先生、早く行かなくていいんですか? ほら、今日の授業の準備とか!」
「あ、ああ、よく分かったね」
「え……。せ、先生のことだから、そうなのかなあって……」
「先生のことだからって、なんか納得できないんだけど。まあ本当に授業の準備があるし、先に行くよ」
「はい。また学校で」
僕は自転車のスピードを上げる。
副崎の様子は相変わらずだが、決して嫌われているという感じではしない。
昨日の今日だし、もう少し時間が必要なのかもしれない。
ひとまずそう自分に言い聞かせ、僕は学校に向かった。