アフタースクールラヴストーリー

「はあ……はあ……はあ……」

私は無我夢中で走っていた。
こんなにも懸命に走る必要があるのか分からないくらいに。
とにかくあの場にいたくなかった。
優君から離れたかった。
立ち止まってしまったら、優君に捕まってしまいそうで嫌だった。
いや、正確に言えば優君に捕まるのが嫌だったのではない。
優君が突きつけてくる言葉を耳にするのが嫌だった。
これ以上一緒にいたらまた何か言われそうで、そこから二人の関係により大きな亀裂が入りそうで、怖かった。
私はひたすら走っていた。

「はあ……はあ……はあ……はあ……」

気が付くと私は、自分の家の前まで来ていた。
急いで鍵を開けて家の中に入り、玄関にしゃがみ込む。
流していた涙は、走っている最中に出た汗と混ざって、いつの間にか収まっていた。

「どうして、あんなこと言うの……」

自分の他に誰もいない家の玄関で、電気もつけることなく呟く。
私は隣にあった靴箱に寄り掛かる。
荒くなっていた呼吸は徐々に整い、心脈も緩やかになる。
それと共に私の中の怒りと恐怖も消え、落ち着きを取り戻していった。

洗面所で汗を拭い、制服から部屋着へと着替えた私はお風呂の準備をし、沸き上がるまでリビングで待つことにする。
テレビをつけるとタイミングが良いのか悪いのか、近くの高校であった教師と生徒の間での交際トラブルを伝えるニュースが流れていた。
そのニュースを見ながら、私は優君の言ったあの一言を思い出す。

「生徒が教師に恋愛なんておかしいだろ」

教師と生徒間の恋愛に対して、多くの人が悪い印象を持っていることは分かっていた。
現に今流れているニュースでも、番組に出ているコメンテイターが、生徒と教師の交際について厳しい意見を述べている。

私は、久田先生を好きになってしまった。
そして久田先生を好きになって、幸せを感じた。
誰かを好きになる喜びを知った。
だから私は久田先生との間にある、教師と生徒という関係について考えないようにした。
もしそれについて考えてしまったら、私が感じていたこの幸せな気持ちを、自分で否定しかねないと思ったから。
自分が抱いたこの感情が、異質なものだと思わされることが怖かった。
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