アフタースクールラヴストーリー
しかし今日、はっきりと言われてしまった。
大好きな優君に。
これまでずっと一緒で、誰よりも私のことを分かってくれた幼馴染に。
その衝撃の大きさに耐え切れず、私は逃げ出してしまった。
「やっぱり……」
私が何か言おうとするのを遮るかのように、お風呂が沸いたことを知らせるアラームが鳴る。
「……お風呂入ろ」
私はゆっくりと腰を上げ、お風呂場へと向かう。
その足取りは親鳥と逸れた雛のように、ひどく覚束ないものだった。
入浴中も私はずっと、教師と生徒の恋愛について考えていた。
多分これまでだったらさっきのニュースを目にして、ただただ不快感を覚えただろう。
でも今は違う。
それではいけないのだ。
それをしてしまったら、今の自分をも否定してしまう。
決して私は、自分が間違っているとは思っていない。
私は普通の女子高生だ。
真面目に勉強して、生徒会の仕事に取り組んで、他の高校生と大きな違いはない。
そんな普通の学校生活を送る中で、私は久田先生を好きになった。
それでも、私の想いは良くないものとされてしまうのだろうか。
世間からしたら不純なものとして捉えられるのだろうか。
そうした考えに対してはっきりと異議を唱えられない限り、これからも久田先生のことを好きでいることはできない。
だが今の私は、一人で立ち向かうための勇気を振り絞れそうにない。
幼馴染に付けられた胸の傷は、それだけ大きいものだった。
湯船に浮かばせたアヒルのおもちゃは、幼稚園の頃から使っている。
私の心境を悟っているのか、浴槽の中をゆらゆらと、進む道も分からずに泳いでいた。
「ご飯作らなきゃ……」
お風呂から出た私は、そのまま台所に立つ。
私は現在、お父さんと二人で暮らしている。
お母さんは私が中学一年生の時に、病気で他界した。
アヒルのおもちゃを捨てずにとってあるのは、お母さんと二人でお風呂に入る時に必ず入れていたものだから。
幼い頃の私はほとんどわがままを言わない子だったそうだが、あれだけはどういうわけか、お店で駄々をこねてまで欲しがったらしい。
そんな思い出の詰まったアヒルのおもちゃを浮かべてお風呂に入ると、亡くなったお母さんと一緒に入っている気分になる。
お父さんは市議会議員をやっており、いつも帰りは遅い。
そのため夕飯は基本的に私が作っている。
昔はお父さんとも仲が良く、会話も多かった。
けれどもお母さんがいなくなってから、お父さんは異常なまでに仕事に打ち込むようになり、私との会話も極端に減った。
私が高校生になって生徒会に入ると、お父さんが休みの日でも私がいないことも多くなり、会話をする機会は更になくなった。
二人でどこかへ出かけるなんてことは、中学二年生くらいから一度もしていない。
私はお父さんのことは好きだし、仕事に打ち込むのは私を養うためでもあるから、こればかりは仕方のないことだということは分かっている。
でも本音を言えば寂しいし、ほんの少しでいいから私に関心を持ってほしい。
しかし今更、そんなことは無理なのかもしれない。
私はそんな気がしている。