アフタースクールラヴストーリー

「私は……、自分が間違ってるとは思ってない。私はただ、久田先生を好きになっただけ。もちろん本気で。それがどうしておかしいって言われるのか、分からない」

ちひろの目を真っ直ぐ見て訴える私。
ちひろも目を逸らすことなく受け止めてくれる。

「そう。ならそれをありのまま、藤澤に言うべきよ。言葉にして直接ね」

優しく諭すようにちひろは言う。

「でも私、自信がないんだ。本当にそれでもいいのかって。自分が先生を好きでもいいのかって」

ちひろに何か相談すると、いつも私は何でも話してしまう。
自分の中の不安も迷いも全部。
それをちひろはどんな時も聞いてくれて、助言をしてくれる。
私はちひろに迷惑をかけてばかりだ。

「だけど、自分では間違ってると思ってないんでしょ?」
「……うん」
「だったらそれを伝えるしかないじゃない」

ちひろは当たり前のことを言うかのような顔をしている。
その表情に困惑しながらも、私は怖くて聞けなかった一つの質問をする。

「私が先生を好きなこと、おかしいとか思わないの?」
「うん、思わないよ」

動じる様子もなく即答するちひろ。
私は思わず二度三度瞬きする。

「誰かを好きになる気持ちに、おかしいなんてないと思う。好きな気持ちが本物なら、それはどんな形であれ尊重されるべき。だから私は、美奈の気持ちが変だなんて思わない」
「ちひろ……」

その言葉を聞いて、胸が軽くなる。
自分の気持ちを肯定してくれる人が一人でもいるという事実が、とても心強かった。

「というわけで、藤澤にしっかり自分の気持ちを伝えなさい。大丈夫、藤澤ならきっと美奈の気持ちを理解してくれるよ。そこから仲直りもできると思う」

ちひろは柔らかに私に微笑みかける。

「……そっか。ありがとちひろ」

私も笑顔で返す。
結局自分の気持ちを相手に伝えない限り前には進めない。
でも、そんなことは分かっていたんだと思う。
私はただ、ちひろに自分の想いを聞いてもらって、私の背中を押してほしかっただけなのかもしれない。
こうして私は、またちひろに助けてもらったのだ。

「あ、もうすぐ昼休み終わっちゃう。早く食べて教室帰ろ」

ちひろに急かされ、私は残っていたお弁当を平らげる。

雲が覆っていた空に僅かな晴れ間が覗いたが、すぐに隠されてしまう。
加えて強い風が吹き出し、激しく音立てて校庭の木々を揺らし始めた。

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