副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
* * *

 思えばあの時、どうして感じた違和感の元を彼女に追求しなかったのだろうか……。

 そうすれば今頃、私は本屋さんの袋を持って鼻歌を歌っていたかもしれない。

 少なくとも、今こうして身体を縮こまらせながら、グラグラと目眩を起こしていることはなかったはずだ。

 『庶民は庶民らしく』って、こういう意味だったのね……。

 堪(こら)えきれずふっと小さく息を吐くと、彼女に肘で小突かれて顔を上げた。

「ちょっと、次、明日奈の番よ」

 そう小声で促してくる彼女の表情は、口調とは裏腹に、両方の口角を綺麗に上げて完璧なまでの笑顔をキープしている。

 営業で培った技術を合コンでもフル活用するとは、さすがの抜け目のなさだ。

 良いのか悪いのか、改めて感心していると、再度小突かれて私は重い口を開く。
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