副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「そうなんだ」

 彼は満足気な笑みを浮かべる。

 この人は、恋人がいてもこういう場に来たりするということだろうか?

 混乱し始める頭を必死に落ち着かせていると、彼は露骨に機嫌を良くして、空いていた数十センチの距離をグッと詰めてきた。

「あ、あの……」

 再び距離を保とうとしても、私の左側にあるのは先ほど頭を打ち付けようとした壁だけ。

 少し近いです、と言おうにも、彼は私が困っていることなど予想もしていないようで、構わずさらに顔を近づけてきた。

「俺、明日奈ちゃんすごいタイプなんだ」

 耳もとで囁かれ、背中には嫌な汗が流れる。

「俺みたいなタイプ嫌い? 俺は、もっと明日奈ちゃんのこと知りたいと思ってるんだけど」

 耳に彼の吐息がかかり、思わずギュッと目を瞑り唇を噛み締めるけれど、上手く返す言葉が出てこない……。

 どうしよう。空気を壊すわけにはいかないけど、早く帰りたい……。
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