副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 両方の手のひらを強く握り締めたそのとき、ガシャン、と水音を含んだ高い音が響き、部屋にいた全員が音の元へと顔を向けた。

「あぁ、やっちゃったな」

 力なく笑うような声でそう漏らしたのは、私の向かい側の席に座っていた男性。

 机の上には、彼が倒したであろうグラスから零れ落ちた氷やお酒が立派な水たまりを作っていた。

 そのワイシャツの袖元からは、ポタポタと次々に水滴が零れ落ちていく。

「私、拭くもの貰ってきますね」

 彼の隣にいた女性が、慌てて店員さんを呼ぼうと立ち上がる。

 大変。早く拭かないと、シミになってしまいそうだ。確か使ってない予備のハンカチがカバンにあったと思うんだけど……。

「すみません。大丈夫ですか?」

 必死にカバンの中を漁っていると、突然降ってきた柔らかな声に、私はゆっくりと顔を上げた。
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