副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「わ、私……ですか?」

 戸惑いながら問いかけると、彼はゆっくりと頷いた。

「やっぱり覚えてなかったか。飲み会で再会したときもなにも言わないから、そうだとは思ってたけど」

 彼は小刻みに肩を震わせて笑う。

「す、すみません。あのときは本当に緊張していて、あまり記憶がないんです……」

 情けなく眉を下げると、彼は私の頭をポン、と撫でた。

 俯き気味だった顔を上げると、彼はこちらを見つめて薄笑みを浮かべる。

「あのとき、君が俺の人生を変えてくれたんだ」

「……私が、副社長の?」

 予想外の言葉に目を見開くと、彼は私の頭に置いた手を髪に沿って滑らせた。

 そして毛先にそっとキスを落とすと、視線だけをこちらに向ける。

「『自分を信じろ。誰よりも自分のために。そうじゃなければ、今生きている一秒すらムダになってしまう』って、あの日の俺に言ってくれただろ?」

 ゆっくりと囁かれた言葉を聞いて、私の頭には忘れかけていた記憶が過ぎった。

 そうだ、私……あの日……。
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