副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
 少し歩いたところにあったガラスのドアを押し開けてテラスのようなスペースに出た彼女は、白い柵に手を置いてその景色を見つめた。

 そっと少し後ろに立つと、彼女は風に吹かれて揺れる髪を耳に掛ける。

「私、子供のときからずっと……千秋のことが好きだったの」

 徐に口を開いた彼女は、まるで他人事のように淡々と話を始めた。

「かっこよくて、強い意志があって、優しくて……。いつからかわからないけれど、気付いたときには好きになってた」

 少し後ろから見えるその美しい横顔は、しっかりと前を見つめている。

「だからお爺様から千秋と結婚出来ると聞いたときは、本当に嬉しかった。政略結婚が当たり前だと思ってたし、彼となら……望んだ未来を作っていけるって」

 言葉に詰まったように口を噤んだ彼女は、ふっと侘しい笑みを浮かべた。

 思わず胸が引きちぎれそうなほど痛むけれど、私はなにも言わずに彼女が再び口を開くのを待ち続ける。

 私だけは、この話を最後まで聞かなくちゃならない。誰よりも同じ痛みがわかるからこそ――。
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