副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「でも、千秋の気持ちが私にないこともわかってたの。ずっと、誰よりも彼のことを見てたんだもの。誰よりも、痛いほどにわかっていたわ」

 身を引き裂くような悲痛の声に、私は寄り添うように彼女の隣へと足を進めた。

「あなたを初めて見た日、千秋にとってあなたが特別だってすぐにわかった。……彼が私をあんな目で見たことはないもの。だから、嘘を付いてごめんなさい」

 こちらを向いて深々と頭を下げた彼女。

 私が肩に手を添えてその身体を起こすと、彼女の目は真っ赤に潤んでいたけれど、その目から涙がこぼれ落ちることはなかった。

「あのあと、雅治にも怒られたわ」

「……三浦さん、ですか?」

「えぇ。雅治があんなに怒ったところは、初めて見た。悔しいけれど、私はあなたに二人の初めての姿を見せられたの」

 眉を下げて苦い笑みを浮かべる彼女は、私を見つめてゆるりとその口角を上げる。

 最後まで気丈なその姿に、私は彼女の本当の美しさを見たような気がした。
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