副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「じゃあ行こうか」

 店の屋根の下で水色の傘を差した彼が、私に傘を傾けた。

「あ、私は……」

「――送るよ。友達にも、そう約束しただろ?」

 電車で帰ります、と言おうとしたつもりだったのだけれど、小首を傾げる彼に見つめられて、その言葉は喉の奥へと引っ込んでしまう。

「……ありがとうございます」

 私の言葉を聞いた彼は満足気に微笑むと、ゆっくりと歩き出した。

 見ず知らずの人にここまで迷惑をかけてその上雨の中こうして送ってもらうなんて。

 ……罪悪感で胸が押し潰れてしまいそうだ。

 チラリと上を見上げると、彼は真っ直ぐに前を見つめて歩いている。

 私が濡れないようにか、そのピンと伸びていた背筋は少し曲がっていた。

「そんなに見られてたら、穴が開くかもな」

 私が見ていることに気が付いたのか、彼こちらを見ることなく、ポツリと呟く。

「すみません……!」

 慌てて顔を逸らした私は、急激に早くなっていく鼓動に飲み込まれないように、小さく深呼吸をした。
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