副社長はウブな秘書を可愛がりたくてたまらない
「……夕食準備したんですけど、お腹は空いてますか?」

 あとは企画書に目を通すだけだから、と言われ先に仕事から上がった私は、スーパーで買い物を済ませ夕食の準備しながら彼を待っていた。

「あぁ。すっかり疲れも吹っ飛んだことだし、いただくよ。ありがとう」

 彼は私の頭をポン、と撫でる。

 また、軽々しくそんなことを言う……。

 私が熱くなる頬に手を当てて視線を逸らすと、クスッと笑みを零す声が鼓膜を擽った。

「着替えてくる」

 横目にその大きな背中を見ると、思わずはぁーっと長い息が漏れる。胸から身体中に広がっていく鼓動が落ち着かなくて、私は唇を噛み締めるように固く結んだ。

 するとタイミングを待っていたかのように炊飯器が音を上げて、肩を跳ねさせた私は慌ててキッチンへと向かう。

 出来上がったばかりの筑前煮とだし巻き玉子を見つめて、収まるどころか徐々に仕事を早めていく鼓動に困惑させられた。

 三ヶ月の間、こんな風に彼に揺さぶられ続けるのかな? まだ二日目だというのに、正直もうお手上げ状態だ。

「恋愛初心者には、ついていけないよぉ……」

 誰にも聞こえない声は、キッチンに静かに響いた。
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