神木部長、婚姻届を受理してください!
「そうかい。でも、立川ちゃん、お酒を飲めるようになったらきっと部長ともっと近づけると思うよ」
「え?」
「ほら、部長もお酒を飲む人だから、一緒に飲める相手が良いと思うものだろう。お酒を飲める人というのは、お酒を同じだけ飲める人を好むものだよ」
僕の妻もそうだよ、と付け足して笑う田口さんの言葉を聞いた私の身体はすでに動き始めていた。畳からお尻を浮かせた私は、テーブルの上にあるメニューを手に取った。
「それ、本当ですか?」
メニューを両手に抱えて聞く私に、田口さんは二度深く頷いた。私は、側を通り過ぎようとした店員さんを呼び止めると、メニューの真ん中あたりに書いてある柚子サワーをひとつ注文した。
「私、飲みます!」
注文をし終えると、私は田口さんに向けガッツポーズをしてみせた。すると、田口さんは嬉しそうに拍手をしながら笑った。
私は、届いた柚子サワーのジョッキを手にすると、田口さんの持つビールジョッキに当てて「乾杯です」と一言。
「これで、部長に一歩近づけるねえ」
おめでとう、おめでとう、と笑顔の田口さんに私も笑顔になる。
私が神木部長を好きだということは今や会社の人殆ど全員が知っている。それほどにオープンで尚且つ凄まじい私の猛アタック。それでも全く動じない、私には興味のなさそうな部長に、お酒を飲むだけで一歩近づけるなら安いものだ。