神木部長、婚姻届を受理してください!
聡介さんと話したい。だけど、話したくない。二人で話をしてしまえばきっと私は、自分の気持ちばかりを押し付けて聡介さんを困らせてしまうに決まっている。
ああ、出来ることならこのまま時間が進まなければいいのに。なんて、そんなことを願ってしまう時ほど時間は早く経ってしまうもので、定時を過ぎると私は会社前で待っていた聡介さんの元へ向かった。
「お疲れ」
「お疲れさまです」
私が声をかけるよりも先に、こちらに気づいた聡介さんが優しく笑った。
聡介さんとプライベートな時間を過ごすのは久しぶりで温かい気持ちになると同時に、中幡さんのことを考えると少しだけ悲しくなる。
「とりあえず、場所移そうか」
「はい」
何処と無く重い空気が流れる中、私達は数分歩いた場所にある大きな公園へと場所を移し、少しだけ不自然な距離を開けて二人並んでベンチに腰をかけた。
「沙耶」
「はい」
「違ったら悪いんだけど、最近、何かあった? いつもと様子が違う気がして気になってた」
本当に、聡介さんはずっと、出会った時からずるい人だ。そうやっていつだってとびっきり優しい声で私の名前を呼んで、優しくて温かい言葉をかける。