神木部長、婚姻届を受理してください!
嬉しくて、つい、単純な私は悩んでいたことを忘れたくなる。だけど、今は忘れられても、このモヤモヤは事あるごとに戻ってくるに違いないことを分かっていたから、私は聡介さんに何も返さずそっぽを向いた。
「沙耶」
苦しい。今、間違いなく聡介さんは私のことを心配して、私のために切なげな表情を浮かべているはずなのに。やっぱり、どうしても中幡さんの事が気になって仕方がない。
「ごめんな。最近、仕事ばっかりで話せてなかったから……」
「違う」
「え?」
「そうじゃ、ないです」
もう既に震えてしまっている声。暗いとはいえ、泣きそうなこの表情を見られてしまわないよう、私は視線を落とすと唇を噛み締めた。
「沙耶、言ってくれないと分からない。教えて」
聡介さんの一言を聞いたあと唇から歯を離すと、すう、とゆっくり息を吸い込んだ。そして。
「……どうして、中幡さんと付き合ってたって教えてくれなかったんですか?」
小さく、でも、はっきり聡介さんに聞こえるようにそう発した。