神木部長、婚姻届を受理してください!

「デートの約束をしてた日曜日も、中幡さんとご飯に行ったんですよね? 中幡さんがいるのに、どうしてあの時、私と付き合ったんですか。どうして、好きだなんて嘘をついたんですか」

 聡介さんの表情を見るのも、次の言葉を聞くのも怖くて、私は視線を落としたまま次から次へと言葉を発し続けていた。

 聡介さんが何度も「沙耶」と私の名前を呼び、話をしようとするけれど、私はその言葉に一切耳を傾けない。

「会社の人に付き合ってることを言わないっていう約束も、本当は私の事なんか好きじゃないから、だから……」

 次から次へと溢れ出る不安が止まらなかった。いつの間にか頬も濡れていて、私は手のひらで顔を覆うと、早くも今言い放った言葉たちを後悔した。

 これまでに付き合ったことのある男性に何度となく言われた〝重たい〟という言葉。

 好きになると周りが見えなくて、すぐに不安になって、我慢せずに相手に一方的に気持ちを伝えては困らせてしまう。私は、ずっとそうだった。

 自分の気持ちが重たいと別れを告げられて後悔した、いつかの私と今の私は全く変わらない。これだから、いつも失敗するんだった、なんて後悔は今更すぎる。


「……ごめんなさい」

 やっと我に返った私は、濡れた頬を拭うとベンチから立ち上がり、小さく頭を下げた。


「短い間でしたけど、ありがとうございました。神木部長、大好きでした」


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