神木部長、婚姻届を受理してください!
「え?」
「私が、こんな風に重たいから。聡介さんのこと困らせてますよね」
両手のひらを太ももの上に置いて、制服であるグレーのタイトスカートをぎゅっと掴む。それと同時に、ぽつり、とスカートに涙が落ちた。
ああ、振られるだろうな、私。
なんて、ほんの少し先の未来を予測してはまた流れ落ちる涙。私の脳内は、うまく感情をコントロールできない自分への苛立ちと後悔で溢れている。
「重たいなんて、俺は思ってないけどな」
「え?」
間抜けな声を漏らして顔を上げると、隣に腰掛けている聡介さんがゆっくりベンチから立ち上がった。
「今回のことは、間違いなく俺が悪かった。沙耶が心配するのも無理ない」
だから謝らないで、と言って私の目の前に屈み込む聡介さん。
ゆっくりと右手を伸ばした彼の指先は、ゆっくり私の髪を撫で、頬を伝う涙を拭った。
「こんなに年の離れた彼女は初めてだし、こんなに愛くるしい気持ちも初めてだから、実は、まだちょっと戸惑ってる。自分だけじゃ分からないことが多くて、どんなデートをしたらいいのかとか、沙耶の誕生日プレゼントをどうしようかとか、常に色んなことを考えて悩んでて。中幡とご飯に行ったのも、そういう事を相談してたんだ」
〝愛くるしい〟とか〝戸惑ってる〟とか、そんな感情を聡介さんが持っていたなんて想像もしなかった。
中幡さんとよく話していた理由も、私には全く予想できなかった理由で、私は何と返事をすべきか分からず、ただ黙って聡介さんを見ていた。
「沙耶」
「は、はい」
「たくさん心配かけてごめんな」
聡介さんの右手で優しく撫でられる髪。私は、返事の代わりに笑って大きく頷いた。