神木部長、婚姻届を受理してください!


「おはようございます」

 オフィスに入ると、私はいつものように挨拶をしながら自分のデスクへと向かった。


「おはよ、沙耶ちゃん」

「香織さん。おはようございます」

 私が席に着き一息つくと、私より先に出勤していたらしい香織さんが資料束を抱えてやって来た。

「あれー? なんだか今日は何だか表情が明るい気がする」

「ふふふ。詳細はまたお昼休みにお話します」

「何かあったのね。分かった。お昼楽しみにしてる」

 ついついにやけながら質問に答える私。そんな私を呆れるように、でも優しく笑うと香織さんは資料束を自分のデスクに下ろした。

「はい、楽しみにしててください」

 昨日は、聡介さんと話せたことでなんとか私の誤解や二人の間にあったわだかまりのようなものが解けた。

 昨日までは、あれこれネガティブなことばかり考えてしまっていたけれど、単純な私は、また今日からは明るくやっていけそうだ。


「あ。そういえば、沙耶ちゃんの大好きな神木部長が呼んでたよ。〝立川が出勤したら部長室に来るように言っといて〟って」
 
「えっ?」

「言われなくても毎朝行ってるのにね? まあ、行って来なさい」

 少しからかうように笑っている香織さんが言う通り、余程のことがなければ毎朝部長室に足を運んで挨拶をしている私。それをわざわざ呼び出すと言うことは急用か何かだろうか。

 何の予測もできないけれど、私はただ頷いて「行って来ます」と香織さんに告げると部長室に向かった。
< 110 / 113 >

この作品をシェア

pagetop