神木部長、婚姻届を受理してください!
〝でもさ、今は上司じゃないよ〟という部長の一言に、私の胸は大きく高鳴った。
確かに、そうだ。あまりにも現実味を帯びていなくて、時々、神木部長と付き合っていることを忘れてしまうけれど、部長はちゃんと私のことを〝部下〟ではなく〝恋人〟だと思ってくれている。私は、それがたまらなく嬉しかった。
「よし。食べようか」
「はい。いただきます」
「いただきます」
いつの間にかテーブルの上にたくさん並んでいた料理。私と部長は一度両手を合わせると、他愛もない話をしながら食事を始めた。
「部長」
「ん?」
「明日、休日出勤されるんですか?」
「ああ、うん。ちょっと片付いてない仕事があって。月曜の午前には目を通しておきたい企画案もあるし、出勤する予定。あ、それより」
「はい?」
「聡介、でいいよ」
「えっ?」
「名前。今はプライベートな時間だし、〝部長〟って呼ばれるの、元々そんなに好きじゃないからさ」
思わぬ一言に、フォークを持つ手の力が一瞬緩んだ。危うく落としてしまいそうだったフォークをぎゅっと握り直すと、視線をゆっくり落として口を開く。
「あ、えっと、それじゃあ、お言葉に甘えて聡介……さん、で」