神木部長、婚姻届を受理してください!
「どうして言わなかったの」
「それは、その……」
「何? 言ってみて」
「少し前に、ネットニュースで見たんです。一緒に食事や飲み会をするときにポテトフライを注文する部下は嫌だと思う上司が多い、って」
視線を段々と落とし、テーブルの上に丸めて置かれているおしぼりを見ながら呟くように発する。
すると、私の回答に神木部長は声を漏らしながら笑い始めた。
「立川、そんなことでポテトフライの注文躊躇ってたのか」
面白いな、と言って肩を揺らしている部長は完全に私を馬鹿にしているように見える。
「そんなこと、って、酷い!私は、すごく悩んだのにーー!」
ダンダン、とヒールで軽く床を蹴るような動作をする。すると、神木部長は「ごめんごめん」と言って私を宥めようとした。
「でもさ、今は上司じゃないよ。それに、俺もポテトフライ好きだから全然そんなこと気にせず頼んでくれて良かったのに」
気遣いすぎ、と付け足して私の額に人差し指の先をちょん、とバウンドさせると優しく笑った。