あなたのお家はどこですか?

「いつもごめんね~」

申し訳なさそうな顔をして、岡園さんは毎朝律儀に二人分の朝食を作る。
昨夜あんなに泥酔していた女性と目の前に居る彼女が同一人物だなんて、僕だっていまだに信じられないでいる。

「謝るくらいなら、最初から訪ねて来ないでください」

そう言いつつも、僕は毎日の習慣でリビングの座卓(冬はこたつになる)の定位置に腰を下ろして、大人しく朝食が並ぶのを待っていた。

「どういう訳かさ、酔っ払うとここへ帰って来ちゃうみたいで」

もう何度繰り返されたか分からない不毛な会話に溜息をつきつつ、岡園さんから焼きたてのトーストを受け取る。

「何度も言いますが、あなたの家は向かいのマンションです!!」
「分かってるってば。冷めちゃうから、早く食べようよ」

僕の主張を軽く受け流して、岡園さんは美味そうなベーコンエッグの乗った皿を僕の目の前に差し出す。
今日も黄身の火の通り具合が絶妙だ。

「とにかく、今度からは気を付けてくださいよ。あと、部屋を出るときも周りに誰もいないか確認してからドアを開けてください。会社で変な噂になってて…」
「新入社員のくせに、社員寮に女連れ込んでるって?ダメだよ、新人のうちは真面目に大人しくしておかないと……」
「誰のせいですか!分かってるなら、もう二度と来ないで下さいっ!!」

厳しい口調で反論しながらも、この完璧な目玉焼きが食べられなくなるのは惜しいと思っている僕は、きっとどうしようもない、お人好しなのかもしれない。

「うん、私も悪いなとは思ってるんだけど。酔っ払うと、何故かここが自分の家だと思っちゃうんだよね」

その一言に迷惑そうに溜息を落としながらも、岡園さんが帰り着くのが、もしも他の部屋だったらと想像するだけで、そわそわして何だか落ち着かない気分になる僕は、きっとお人好しを通り越して、大馬鹿者に違いない。
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