あなたのお家はどこですか?

「で、 その謎の美女はほぼ毎日お前の部屋に泊まっていくと……」

海鮮かき揚げ定食を平らげながら、真鍋の事情聴取は続く。
とうとう例の噂が、同期で一番の世話好きである真鍋の元へと辿り着いたらしい。
時計の針が12時を指すと同時に、身柄を確保され、馴染みのうどん屋へと連行されたのだった。

「さして美人でもないし、毎日って訳じゃない。岡園さんがお酒を飲む日だけ」
「その、岡園さんが一週間のうち酒を飲まない日は何日だ」
「週に一日か二日」
「じゃあ、ほぼ毎日じゃねーか!」

唐揚げ定食を食べつつ答える僕に、真鍋は間髪入れずにツッコむ。
確かにそうだなと思いつつ、僕はまた呑気に唐揚げを口に運んだ。このうどん屋は、僕たち同期が見つけた穴場だ。会社から適度に離れているから知り合いにはほとんど会わないし、うどんではなく各種定食がどれもボリューム満点で美味いのだ。

「まあ、何日でもいいけど。気を付けろよ、泥棒かもしれないし」
「まあ、気を付ける。ご忠告ありがと」

心配してくれている真鍋には悪いが、いまいちやる気のない返事が口から出てしまう。
岡園さんが僕の家を訪ねて来るようになってから早二ヶ月。特に部屋の中からなくなったものはない。

「にしても、酔っ払ってても、さすがに家まで間違えるかな」
「……その発言は、本当の酔っ払いを見たことがないから言えるんだよ」

岡園さんは、正真正銘、本当の酔っ払いだ。一度泥酔している彼女を見れば、真鍋も納得するに違いない。
足下はフラフラ、立ちあがるのもやっとで。頬をピンクに染めて、さして楽しい場面でもないはずなのにニコニコと笑いっぱなし。
そして、迷惑そうにドアを開ける僕の顔を見て「あれぇ?何でいるのぉ?」と驚きながら部屋の中へと入り込む。
誰も居ないはずの自分の家に人が居たら普通は大問題だが、本物の酔っ払いはそんな些細なことは気にしない。「ま、いっか~」と僕のベッドへと勝手に潜り込むのだ。
救いがあるとすれば、彼女が陽気なタイプの酔っ払いだったことだ。夜中に部屋に乗り込まれた上に、怒られたり泣かれたりしたらたまったもんじゃない。
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