ここにはいられない
当然のように千隼は私への気持ちを言葉にする。
それは一緒に暮らしていた時の態度とあまりに違っていて、いまいちうまく繋がらない。
停電の夜のことは私がキャンドルの灯りの中で見た夢ではないかと思っていた。
「千隼は、その、私のこと・・・どう思ってるの?」
顔が見えないのをいいことに聞いてみた。
改まってしまうともう聞けないと思うから。
今捕まえないと、また挨拶だけの関係に戻ってしまう気がする。
返事をしないまま黙って私を抱き締めていた千隼はモゾモゾと起き上がり、手探りでメガネをかけて、同じように身体を起こした私と正面で向き合う。
さっきまで寝ていたとは思えないほどくっきりと強い目で私を見下ろしていた。
「菜乃こそ、大地が好きなんじゃないの?」
千隼は私の気持ちを知っていたし、一度は拒んだ。
あれからそう間を置かず告白したのだから、疑問を持たれても仕方ない。
「私が好きなのは千隼だよ」
否定したり濁したりしたくない。
もし一片でも曖昧さが含まれたら、きっと真っ直ぐには届かない。
私と千隼の想いはそういうスレスレの刃の上を滑っていると思う。
「大ちゃんがダメだから千隼にした、ってわけじゃないよ」
「それは疑ってない。菜乃がそんな器用じゃないことは知ってるから」
「じゃあ何を疑ってるの?」
私に視線を合わせたまま千隼は少しだけ考え込んだ。
「目が覚めたら、菜乃は消えてるんじゃないかと思ってた。まだ現実っていう実感がない」
「現実だよ?触ってみる?」