ここにはいられない


はっ!と思った。
この人は人をよく見ていて、察しがよくて、困っていたら手を差し伸べずににはいられないのだ。

「もしかして、今日、3人にならないようにしてくれたの?」

千隼は最初『行かない』って言っていた。
『仕事があるから』って。
そもそも深夜まで残業しなければいけないほど忙しかったはずなのだ。

だけど里奈が来るって知って急に予定を変えた。
もしあの時すでに私の気持ちに気付いていたのなら、私たち3人の関係に気付いていたのなら、この人はきっとそれを放置しない。

「別に。カップルがイチャイチャするのを一人で見せつけられて、いい気分はしないから」

「だから来てくれたんだ?」

千隼は答えず、少しだけ歩調を早めた。
けれど私が再び小走りで追いつくとやっぱり緩めてくれる。

「ありがとう。私一人だったら、ちゃんと『おめでとう』って言えなかったかもしれない。ちょっと不自然だったけど」

千隼がいてくれても言葉に詰まった。
だけどちゃんと我に返って『おめでとう』って言えたのは、紛れもなくこの人がいてくれたからだ。

「あの二人は何も気付いてないよ。大地はそこまで人の心の機微に聡い方じゃないし、里奈はいつも自分にいっぱいいっぱいだから」

「うん。そうだね」


< 17 / 147 >

この作品をシェア

pagetop