ここにはいられない


「ううーーーーっ」

寝返りを打って目を閉じ直し、じっと自分の身体と対話する。

トイレに行きたい。
あのウーロン茶は我慢したのに、ちゃんと出し切ったはずなのに、水分というのはどこから発生するものなのだろう。

「はああああ」

盛大に溜息をついてみても尿意が収まる気配はない。
このままだとせっかく落ち着いている膀胱炎が再発してしまう。


枕元に置いてある携帯で時間を確認すると2時13分。

丑三つ時じゃないの!

「関係ない、関係ない」とおまじないの言葉を唱え続けても、古来から伝わる丑三つ時の恐怖は消えない。
13日の金曜日は全く気にならないのだから、私も日本人だという証明の一つかもしれない。
これが12時とか5時ならば、同じ暗さでもずっと印象は違うのに。

「あーーーーっ」

すっかり目は覚めてしまって、もう尿意がすっきりしない限り眠気は訪れそうもない。
暗い部屋は嫌なので電気をつけ、ベッドの上で脚をブラブラさせながら更に5分足掻いた挙げ句、ようやく腰を上げた。

なぜトイレに行くためだけに、こんな覚悟が必要なのだろう。


玄関で靴を履き、意を決するためにひとつ深呼吸。

よし!

バンッとドアを開けて走る。
ほんの数秒なのにどうしても慣れない。
彼の家のドアノブを掴み、その勢いのまま乱暴にドアを開けて飛び込むと「うわっ!」という悲鳴に迎えられた。

「きゃあああああ!!」

< 39 / 147 >

この作品をシェア

pagetop