俺様ドクターに捕獲されました
そうなると、うまく言いくるめられて部屋に連れ込まれるに違いない。本気で泣きつけばどうにかなるかもしれないが、そうなると事が大きくなって警察に通報、なんてことも起こりかねない。
それはまずい。佳乃さんにも迷惑をかけるし、逃げたいだけであの人を犯罪者にしたいわけではない。
ひとまず、逃亡作戦を立て直そうと出たフロアは、ちょうどスーパーのある階だった。
そこにあるトイレの個室に逃げ込んで、はあっとため息をつく。
心臓がありえないくらいに早鐘を打っている。自分がかなり動揺していることを認識して、よくもあの状況で冷静に判断できたものだと感心する。
だけど、状況は最悪。このマンションの中にいるうちは、相手のテリトリーだ。
『このまま少し時間を置いてから正面から突破』、『非常階段から脱出』。
思いついた案を頭の中でシュミレーションしても、どうしても頭にチラつく『捕獲』の文字。ダメだ、へたに動いたら私に待つのは破滅の道だ。
「佳乃さんと、あの人が知り合いだなんて……」
世の中って、なんて狭いのだろうか。実に十年ぶりのこの再会は、私にとって恐怖でしかない。
ああ、なんだろう。悪寒がする。ぶるりと震える身体を抱きしめて、どうするべきかと再び思案する。
生まれたその瞬間から、私の隣には常にふたりの“暴君”がいた。