俺様ドクターに捕獲されました


だけど、やみくもに走りながら見える景色は、どこも彼との思い出に溢れていた。


よく遊びに行った児童公園。ジャングルジムから下りれなくなった私を、彼が助けてくれた。あそこの用水路。ひとりで渡れなくて、彼に引っ張ってもらった。


どこを見ても彼の顔が浮かんで、胸が痛くて苦しくてたまらない。離れなきゃ、この街から。


だけど、どこに?


アパートの鍵は、彼に取られたまま。実家は、ダメだ。すぐに彼に見つかってしまう。莉乃は、今日、夜勤だって言ってた。菅谷先生……いや、そこまで仲良くない。


どうしたらいいかわからなくて、その場に立ち止まる。


私、やっぱりひとりじゃなにもできないのかな。少しは大人になったつもりだったけど、やっぱり……。


「……里衣子?」


聞き覚えのある声に名前を呼ばれて、はっと顔をあげる。私の名前を呼んだのは、お兄ちゃんだった。


どこかへ行く途中だったのか、車を降りたお兄ちゃんが、一瞬浮かべた笑顔を引っ込めた。


「お兄ちゃん……」

「里衣子、なんかあった……のなんて顔見りゃわかるな」


私のそばまで歩いてきたお兄ちゃんが、私の頭にポンッと頭を乗せる。大きな手の温かさに気が抜けて、こらえていた涙が一気に溢れた。


「なに、こんなところでひとりで泣いてんだよ。とりあえず、乗れ」

「……うん」

車の助手席に乗ると、ハンドルに片手を乗せたお兄ちゃんがこちらを向いた。

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