俺様ドクターに捕獲されました


一瞬見えた彼の顔を思い浮かべて、青くなる。あれは、すごく怒っている。鬼の形相だった……。


ていうか、なんでここに? 菊池先生はどうしたの?


「……おい、早く開けろ。別にここ、蹴破ってもいいんだぞ」


ガンッと音がしてビクッと身体が跳ねる。ド、ドア蹴ってる。


たしかに、格闘技をやっていた彼ならそのくらいのことはできそうだ。いや、やる。


「里衣子、開けろ」


地を這うような声に、恐怖に負けた私は恐る恐る鍵を開けた。と、同時に勢いよくドアが開いて、彼に抱きすくめられる。


力任せに抱きしめられて、呼吸が止まる。気のせいだろうか、メリメリと骨が軋む音がするような……。


「優ちゃ……苦し……し、死んじゃう!」


本気で訴えた私の思いが伝わったのか、抱きしめる力が少し緩んだ。酸素を求めて息を吸い込むと、いつもはしない香水の香りがふわりと鼻腔を掠めた。


私のその知らないその香りに、ズキンと胸が痛む。ネクタイこそしていないものの、朝は着ていなかったスーツを着ていて、本当にあの人と結婚の話をしてきたのだろうかと悲しくなった。


「……また、逃げられたら……どうしようかと思った。よかった、捕まえられて……」


絞り出すように耳元で囁いた彼が、また私の身体を抱きしめる。まるで、私がここにいることを確認するかのように、彼の手が髪や背中をなでる。

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