俺様ドクターに捕獲されました


「ああいうの、ここでするのどうかと思うけど。ここは、病院なのよ。あなた、新しく来るっていうセラピストさんよね。いったい、なにしに来ているの? ハッキリ言って目障りだわ」


恐ろしく低い声でささやいて、ツンッと顔を背けて去って行くその人の後ろ姿を唖然と見つめる。


あれ。今、私……結構、理不尽なこと言われませんでした?


あの人の言う、“ああいうこと”をしたのは私じゃなくて、彼の方だよね。なぜ、私が攻められるの?


なんか、納得いかないんですけど。


「宇佐美先生、探したんですよ。先週オペした患者のことなんですけど……」


うわぁ、露骨。さっきと全然声が違う。あの人のまわりって、昔からアクの強いタイプの女性が多い気がする。


さっき私を睨んでいた病棟の看護師さんしかり、あの女医さんしかり。


でも、あの人の言うことも一理ある。仕事をしに来ているんだし、ちゃんとしないとな。


「ねえ、天野さん」


ひとり気合いを入れていた私は、突然声をかけられて飛び上がった。顔をあげると、にこやかな笑顔を浮かべた菅谷先生が立っている。


「ごめん、驚かせたかな。俺も、仕事お願いしたいんだけど。条件はつけられたけど、優の許可ももらったからさ」

「あ、はい。それは、全然構いません。お仕事に来てますから」

「よかった。じゃあ、一緒に挨拶に行こうか。脳外科医としてはさ、香りが身体に及ぼす影響に興味があるんだ。アロマが認知症予防に役立つっていう研究もされてるし」


目でついてくるように促されて、ついて行っていいものかと彼のほうを振り返ると、彼はまだ女医さんとなにかを話していた。

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