俺様ドクターに捕獲されました
「ゆっくりでいい。お前の不安、全部受け止めてやるから。話してみろよ」
宥めるように、額や頬、瞼にキスが降ってくる。それがとても優しくて、荒んだ心にあたたかいものが広がっていく。
この人、本当にずるい。普段は横暴なくせに、こういうときはすごく優しい。散々振り回されてきたのに、だから私はこの人を嫌いになれないんだ。
「……すごく小さなことだよ」
「りいには、小さいことじゃないんだろ」
「優ちゃん、呆れるかも」
「絶対、呆れない。俺がりいに嘘ついたことないだろ?」
そう言われて記憶を辿ってみたが、たしかに一度もない。視線をあげれば、目の前にある瞳が、穏やかな優しさを滲ませて私を見つめている。
「あの、私ね……」
深呼吸をしてから、私はポツポツと彼と離れていた十年のことを話し出した。
* * *
十年前、彼から逃げ出した私は、協力してくれた兄の条件に従い、寮のある女子大の看護学部に進学した。
彼も、兄の監視もない大学生活は非常に楽しいもので。親しい友人もでき、私は充実した日々を送っていた。
ただ、合コンと呼ばれるものへの参加は兄にきつく止められていたから恋愛事とは無縁の学生生活だった。
そして、無事に国家試験にも受かり、大学を卒業。私は、兄の職場にほど近い総合病院に就職した。
働き始めて三ヶ月が経ったある日。ひとりの患者さんの容態が急変した。
生命の危機に晒された患者さんを前に、私は身動きがとれなくなってしまったのだ。