空高く、舞い上がれっ。
自分が上に行けば目の前の鶴見先輩がB軍に落ちるかもしれない。そう思うと言葉がつまって息が出来なくなる。

「お前、辞めんなよ」

「え?」

「お前、野球好きなんだろ?」

先輩と目が合う。予想外な言葉に頭がまわらない。

「俺はマジ野球好きだなぁ~。だから卒業まで何があっても、どんなにつらくても辞めない」

先輩は左手でポン、と俺の肩をたたいて横に抜けドアへ向かう。

「輝空‼」

「は、はい……」

「一緒に頑張るぞ」

「……っはい‼」

この前は殴ったりして悪かった。と最後に呟いて去って行く先輩の背中を、流れ出そうな感情をこらえて見送った。


『輝空くんは野球が好き?』

「……好きだよ。どうしようもねぇくらい好きだよ‼」

汗と泥だらけで走り回る体、一球への集中、高く跳ぶ心地よさ……

『野球が好き』
それが高校球児の条件だ。

***
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