空高く、舞い上がれっ。
*輝空 side*
監督と話を終えた俺は、部室の机に置いてあったグローブを手に取り見つめていた。
窓から入る陽射しでハウスダストが光る。
色あせたロッカーの前で大きな呼吸をひとつ。無音の中にひたる。
『輝空くんは優しいから、誰かが傷つく事が嫌なんだよね。でも……何のために高校で野球をしてるの?先輩のためなの?』
『輝空くんは野球が好き?』
雨の帰り道、歩舞の言葉が離れない。
《お前が続ければ続けるほど誰かに迷惑がかかるんだよ》
自分の中の不安の声に束縛される。
苦しい……つらい……
その時、ガラガラとドアのあく音がして振り向くとそこには鶴見先輩がいた。
挨拶をするが、先輩は目を合わせようとはせず、そのまま俺の後ろを通り自分のロッカーをあける。
無言、沈黙。
それをやぶったのは先輩だった。
「お前、辞めんの……?」
ドキッとして、先輩の方を振り向く。
「……まだ保留です」
少し足が震えた。