【完】『藤の日の記憶』
しかし。
由美子は違う感懐であったようで、
「ねぇ、一誠くん」
「?」
「この樹ってすごく古そうだね」
「せやね」
由美子の手が、一誠の手を柔らかく握った。
「この藤はさ、うちらが生まれてくる遥か前からここにいたんだよね」
「多分、そうやと思う」
「きっとやけど、うちらがいなくなってもこの花は、季節が来たら咲くのかも知れへんね」
華やかに見える顔立ちとは裏腹に、由美子はそういう繊細な神経を持っているように、一誠には映った。