【完】『藤の日の記憶』

食堂を出ると、橘橋を左手に少しばかり歩いて、四人は表門から平等院の境内へ入った。

白洲を踏み締めるサクサクという音が、連休の初日ながら人の少ないあたり一面に響いている。

やがて。

観音堂を左に、巨大な藤が見えてきた。

「でっかい藤やなぁ」

思わず一誠の口から感嘆の語が出た。

あたりの桜はすっかり葉桜で、そこには幹をうねらせ左右に枝を拡げ、満開に咲き誇った藤の巨樹が、たたずむという表現が似合いそうな姿でそこに存在していた。

「こないだ撮影で来たときには、まだ全然つぼみやったんやけどなぁ」

観光のキャンペーンか何かで、振り袖を着たアイドルの女の子を撮ったらしいのだが、

「やっぱり花は咲いてなんぼやな」

泉が言った。



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