契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
(あ……忍さんの声だ)

 寝ぼけ眼で、微かに聞こえた声を拾い、反応する。
 眠気がまだあり、うつらうつらとし、数分後にどうにか睡魔に勝って瞼を開く。はっと頭が冴え、視線を落とす。

「また……!」

 自分の寝相に今日も赤面する。

 忍が本来寝ていた場所は、まだ少し温もりが残っている。
 けれど、それは自分が寝ていたせいかもしれないと思うと、忍が起きて間もないかどうか確証はもてなかった。

 さっきまで確かに忍の話し声がした。きっと電話をしていたのだろうとリビングに足を伸ばすも、そこには誰もいなかった。

(もう出ていったの?)

 ダイニングテーブルへゆっくり歩み寄り、そのままキッチンへと入る。

 シンクには洗い物が残っていたが、用意していた食事は綺麗に平らげてくれていた。
 うれしい気持ちと共に少しの寂しさが湧いてきて、鈴音は慌てて頭を横に振った。

 その瞬間、廊下からガチャッとドアノブを回す音が聞こえる。
 鈴音は目を剥き、息を求めて固まった。

「鈴音。起きたのか」
「し、忍さん! おはようございます」

 突然舞い戻った忍に混乱する。

「なにか忘れ物ですか?」
「ああ。保険証を……」

 忍がキャビネットの引き出しから保険証を取り出すのを見て、思わず口を開く。

「え? 病院は明日の予約じゃ?」

 鈴音は動転し、今日の日付を思い出そうと視線を泳がせる。
 鈴音が慌てているのは、忍が病院へ行くときはついていくつもりだったからだ。

 偶然にも再診の日が休日だとわかったときから、忍について病院に行く予定だった。
 自分のせいで負った怪我だ。仕事ならともかく、休日ならばやはり付き添いたいと思い、忍に志願していた。
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