契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「えっ……」

 鈴音が声を漏らしてしまったのも無理はない。
 佐々原が見ている前で、薬指に指輪をはめられたからだ。

 忍は鈴音をさらに引き寄せ、佐々原に権勢誇示する。

「鈴音はオレの妻だ。誰でもいいわけでも、彼女を強請るつもりもない。あなたが介入する隙もない」
「な……なんだって?」

 佐々原は初対面でいきなり牙を剥かれ、当然驚いた。だが、同じくらい鈴音も驚倒していた。

 これは演技。佐々原を納得させるための嘘。

 そうとはわかってはいても、鈴音の胸は高鳴って止まない。

「山崎さん、無理しないで」

 佐々原は眉を寄せ、同情の色を浮かべて声をかける。
 鈴音は咄嗟に触れていた忍の腕を軽く掴み、ゆっくり忍を見上げた。

(私は、この手に救われた。だからと言って、その罪悪感や責任感じゃなく――)

 自分の左手に視線を滑らせ、薬指に光る指輪を瞳に映す。

 契約のしるし。
 そこに本物の愛はないけれど、輝くプラチナに縛られることに抵抗はなかった。

「佐々原さん。これは、私の意思です。彼と一緒に居たいんです」

 鈴音は迷いのない目をして、はっきりと答えた。
 その声があまりに凛然としていて、忍までもが驚かされた。

 それこそ、そのセリフはこの場凌ぎだと頭で理解していても、心を奪われてしまうほどに。

「変な誤解とご心配をおかけしてすみません。失礼します。行きましょう、忍さん」
「あ、ああ……」

 鈴音は整然と礼をすると、珍しく戸惑った忍の腕に手を添えたまま、佐々原に背を向けて歩き出した。
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