契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
昨夜も何事もなく終わった。
帰りはタクシーを使い、乗り場まで梨々花が付き添ってくれていたから安心できた。

鈴音は朝から日記帳を眺めていた。

二十歳頃から欠かさずつけている日記には、山内のことは一切触れていない。
日記につけたら、ずっと残る。思い出したくないことだから、敢えて筆を取らないようにした。

どうか、このまま本当になにもなかったかのように、時間が過ぎていってほしい。

そう願っていたところに、携帯が音を上げた。

(朝から誰だろう? 佐々原さんかな?)

鈴音は、シフト変更かなにかの連絡かと、佐々原を予測して携帯を拾い上げる。

「え……?」

想像と違う展開に、思わず神妙な面持ちで携帯を見つめる。
ディスプレイには、登録していない番号が表示されていた。

(これって……もしかして)

嫌な予感しかしない。真っ先に浮かんだのは、今、最も恐れている相手、山内。
鳴り続ける電話に恐怖を感じ、枕の下に押し込める。

(なんで番号まで!)

心臓がドクドクと心地悪く騒ぐ。しばらくすると、着信音も止み、部屋には静寂が訪れた。

「信じられない……」

鈴音はぽつりと呟く。その後、家を出る時間ギリギリまで、携帯には触れる勇気が出なかった。
< 15 / 249 >

この作品をシェア

pagetop