契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「うん。その人、助けてくれた日、買い物もしていってくれててね。ブラックカード持ってた」
「……そりゃ、本物だ」

梨々花は鈴音の説明に呆然として呟いた。けれど、すぐにまたグイグイと話を振ってくる。

「もうそれって棚ぼたじゃん! そこから恋に発展とかないの?」

梨々花とは、もう三年以上の付き合いで、彼女がすぐに恋愛へと話を持っていくことにも慣れていた。
鈴音は涼しい顔でグラスに口をつけ、静かにテーブルに戻す。

「あるわけないでしょ。ただ、お礼はしなきゃと思って」
「ブラックカード持っているような人なんだから、お礼なんていらないでしょ」
「それとこれとはべつ。私の気持ちの問題」

重ねられていた皿を一枚とって、サラダを取り分けながら答える。その間も、梨々花は料理に目もくれず、名刺に釘付けだ。

「黒瀧忍(くろたきしのぶ)だって。名前までカッコイイね。さすが大企業のご子息」

感嘆の息を漏らし、そういうと名刺を鈴音に返した。

「いやぁ、でも普通の女子は、そんな劇的な出会いがあったら目の色変えて、飛びつく物件だよ。どうやってお近づきになろうかって、今頃必死になってるって」
「そうなんだ」
「はぁ。鈴音は冷めてるもんね。本当に、この先そんなんでいいの?」

黄色い声も緩む表情もまったくなく、淡々とことのあらましだけを話す鈴音に、呆れた目を向ける。
鈴音はそれすらも動じなく、きれいにサラダを盛りつけた皿を梨々花に渡した。

「べつに。もう彼氏とかはいい。まわりと同じように、結婚とかそういう夢をみようと無理するのはとっくにやめたから」
「男運が悪かったってのは知ってるけど、次はどうかわからないのに」
「いいったらいいの。ほら、食べよう」

口を尖らせる梨々花を一蹴し、鈴音はトマトを頬張った。
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