契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
どうにか気を取り直し、職場に来ることはできた。けれど、道中周りを警戒していたので、仕事前だというのにすでに疲れ気味だ。

更衣室で制服に袖を通し、今朝の着信が過りそうになった頭を軽く横に振る。

(考えない、考えない)

呪文のように唱え、瞼をぎゅ、と閉じてロッカーを閉める。その際、ひらりと手帳から紙切れが落ちた。

「あ……」

足を折って拾い上げたものは、忍の名刺。
持ち歩く必要性はないが、うっかりそのまま挟んできてしまった。

何気なく名刺に視線を落としながら、更衣室の出口へ向かう。あと一歩でドアノブに手が届く、というところで足を止めた。

(ん? あれ?)

手にした名刺をジッと見て、しばらく固まる。それから、私物バッグに入れてある携帯を素早く出した。あとは、夢中で携帯を操作し、着信履歴の画面を出して、名刺と見比べる。

(嘘! これ、黒瀧さんから!?)

見覚えのある末尾に、念のためと確認した結果、今朝の着信相手は忍だったと気がついた。次の瞬間、ふらりと壁に寄り掛かる。

(ど……どうしよう……)

自分から、なにかお礼が思いついたら連絡をしてほしいと伝えておいて、電話を無視してしまった。
忍からの連絡もありうるということを、すっかり忘れてしまっていた自分にため息が漏れる。

(仕方ない。昼休みに折り返し電話してみよう)

落ち込む気持ちをどうにか切り替え、今度は勘違いをしないように、【黒瀧忍】と登録をし、売り場に向かった。
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