契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
 翌日、午後三時。
 仕事が休みの鈴音はデリエを訪れていた。

 同ホテル内にあるドレスショップはとても広く、パッと見た様子でフィッティングルームも3つほどある。
 鈴音は所狭しと並ぶ純白のドレスを前にボーッとして立っていた。

 昨夜からずっと、星羅に言われたことを何度も回想していた。

 ――『私の目にはふたりが愛し合っているようには見えない。どこか距離を感じるもの』

 あの後、立ち去る直前に星羅はそう言い残した。

 鈴音は、夫婦に見えるように気を付けなければならないと思っていたのに、こんなにあっさり見破られるとは……と落胆した。

 星羅に言われた『距離がある』といった内容の言葉が頭から消えない。

「黒瀧様。こちらのドレスはいかがでしょうか?」
「えっ。あ、はい」
「では、早速お着替えを」

 大して説明も聞かず、適当な返事をしていたら、スタッフが一着のドレスを手に先導して歩いて行く。鈴音は慌てて後を追った。

 ショップに入ってすぐに見えたフィッティングルームを通り過ぎたので、鈴音は首を傾げる。スタッフは突き当たりのドアを開け、鈴音を振り返った。

「どうぞ、こちらへ」

 そこはひとりで使うにはもったいないくらいに広く落ち着いた個室。
 おそらく〝ローレンス社の黒瀧家〟と通達が回り、待遇を良くしてくれているのかも、と鈴音は察した。

 特別な扱いに戸惑う暇もなく、壁側のカーテンの中に案内されると下着姿になるように言われ、恥ずかしい思いで服を脱ぐ。
 ドレスの中心に立った鈴音は、持ち上げられたドレスを着せられ、胸とウエストをぎゅうっと締め付けられた。

 息苦しいけれど、心の中にある思いよりは苦にならないなどと思っていると、スタッフがドレスを着付けながら会話を投げかけてきた。

「本日は平日ですし、ご新郎様はお仕事なんですよね?」
「ええ」

 〝ご新郎様〟という単語で即座に忍を思い出す。
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