契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
忍の寝室前までたどり着くと、鈴音は慌ててドアを開ける。
柳多は躊躇いなく忍の部屋に入り、ベッドに忍を横たえた。

忍は声を漏らしたが、まだ眠っている。柳多は廊下の灯りを横顔に受け、忍の寝顔を見下ろす。そして、うっすら口を開いた。

「最重要だったはずの目的が淘汰されるほどの理由も、同じものかな?」
「え……?」

ベッドの脇に立つ鈴音の元に近付いてきて、目を合わせると意味深な微笑を浮かべる。
それからおもむろにベッドに腰を下ろし、優雅に足を組んだ。

「まさか、彼が女性にほだされることがあるとはね」

忍に向けられている慈しむような優しい眼差しが逆に怖い。
鈴音が息を呑み、柳多を見下ろして尋ねた。

「それって、どういう意味――」
「褒め言葉。さすが、金で簡単に流されるような子じゃないだけあるなあって」

鈴音は絶句する。

これまで掴みどころのない男だとは思っていた。
だけど、こんなふうに棘のある言葉を向けられるとは考えもしなかった。

(いや。それよりも)

正直なところ、柳多にどう思われていようとさして気にすることでもなかった。問題なのは、ただひとつ。

「その話はもうしないと約束したはずです」

今や、鈴音のほうが戸籍料として突き出された大金を、本当は受け取っていないことを忍に気づかれては困る。

その件をちらつかせた柳多の言動をきっかけに、鈴音は彼を警戒し始める。
鈴音の鋭い目を前にしても、柳多は余裕顔だ。

「あのお金を受け取ったことにしたわけは」
「なんの話だ?」
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