契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「あの、具合はもう大丈夫ですか?」

鈴音が問い掛けると、忍は鈴音を横切りリビングに入り、背中越しにぼそりと答える。

「夕方頃にようやく回復した」

カバンをダイニングチェアに置き、ネクタイを緩めるのは毎日同じ流れ。
鈴音はその様子を後ろから眺め、緊張した声で返した。

「それは……大変でしたね」

まともな状態の忍と向き合うのは、衣装合わせのあのとき以来。
まるで、あの時間の続きのように感じてしまって、どうやっても動悸を落ち着かせることができない。

心臓がドクドク騒ぎ、手で胸元をぎゅっと握り締めて忍の背中を見る。

「柳多に相当絞られた」

忍は上着を脱ぎながら、ばつが悪そうにぼやく。

「や、柳多さんって、引っ越しのときも思いましたけれど、ここの家にずいぶん慣れているんですね」

鈴音は少しでも気持ちを落ち着かせようと、雑談を広げた。

忍を介抱する昨夜の柳多の行動は無駄がなかったことを思い返す。

家の中に入ってすぐに、電気のスイッチの位置もすぐわかっていたし、忍の寝室へも迷うことはなかった。
さらには、躊躇いなく寝室に入ったから、ああいう出来事に慣れているのかもしれないと感じた。

「変な誤解するなよ。柳多は昔、オレに仕事教え込むために、ここへびっちり出入りしていただけだ」
「ああ、そうだったんですか」

説明に納得し、何度か頷く鈴音を横目で見たあと、手のひらにある外したネクタイに視線を落とす。
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