契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
「教育係っていうのか……柳多は、やたら親父に気に入られているのもあって。そのおかげで、親父から仕事を教わらなくてよかったけど」

ネクタイの選び方から、メイク用品は自社製品だけではなくライバル会社の製品に至るまでを柳多が教えた。

柳多とは合理的な考え方や教え方など、共通する箇所が多く、自然と受け入れられた。

「へえ……」
「柳多とはすぐ意気投合したし、歳はちょっと離れているけれど兄貴みたいな感じかな」

そんな存在が身近にいてくれたのもあって、父の下で仕事を続けられているのかもしれない。

そう感じたのは、忍ではなく、話を聞いている鈴音のほうだった。
柳多の話をする忍の表情は、穏やかで自然体だったから。

「先にシャワー浴びてきてもいいか?」
「もちろんです。どうぞごゆっくり」

少し空気が柔らかくなって、鈴音の受け答えもこれまで通りのものになった。

リビングを出る忍を見送り、椅子に残されていた上着とネクタイをハンガーにかける。

そうしてキッチンに立ち、夕飯の支度をする鈴音は、どう見ても妻のよう。
しかし、そんなことは鈴音自身気がついていないことだった。
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