契約婚で嫁いだら、愛され妻になりました
待ち合わせは鈴音の勤務先の裏口だった。

(決して車を停めやすいところではないのに。もしかして、私の安全を考えてくれてのこと?)

自惚れた考えが浮かぶが、すぐに頭を横に振った。

(違う。単に、また、『効率がいいから』だ)

以前、忍が言っていた言葉を思い出して納得すると、艶やかなボディのスポーツカーが音を上げてやってきた。

鈴音は周りの人の視線を感じ、小走りで駆け寄る。
窓越しに、忍が『乗れ』といった視線を向けてくるので、鈴音は素早く助手席に乗った。

「動くぞ」

会うなりちらりと目を向けられ、ひとこと言われる。
鈴音は慌ててシートベルトに手を伸ばし、カチッとはめるかどうかのときには忍が車を発進させていた。

人混みから抜けたあたりで、鈴音が口を開く。

「昨日なんですけど、なんだかものすごいたくさん買い物をして……。柳多さんは『大丈夫』と仰っていましたが、気になってしまって」

昨日の買い物の支払いは、もちろん鈴音ではなかった。
柳多が会計を済ませる姿を何度も見たが、そのお金の出どころは忍だということくらいは想像できた。

鈴音は、現段階で与えられるばかりで、なにも返せていない気がして申し訳なさだけを感じていた。

すると、忍は「ああ」と素っ気ない声を出し、前を見たまま答えた。

「気にする必要はない。それは、オレの未来への投資みたいなものだ」

ハンドル操作をしながら、さらりと続ける。

「オレの理想の未来は、きみに懸かっているようなものだからな」

一瞬見せた微笑みに、鈴音は見惚れる余裕なんかなく強張った。

(そんなこと言われても……。やっぱり、自信ないよ。もしも、それを台無しにしてしまったら、私はどうなるの?)

なにを以って成功とするのかすらわからない。そのため、うまくいく想像なんてできるはずがなかった。
不安を掻き消すことができず、そわそわとして尋ねる。

「あの、今日はこれからどこへ……?」
「外や車じゃ落ち着いて話ができないから、オレの家に行く」
「えっ? く、黒瀧さんの家……ですか?」

またもや予想だにしない返答がきて、狼狽える。

忍が家に連れ込んでなにかしてくるとは思えない。けれど、柳多から聞いた子作りの話が急に浮かんで、ありえない方向に考えが及んでしまった。

しどろもどろとする鈴音とは反対に、忍は変わらず冷静だ。

「鈴音の家より近いからな」

そう言って、車通りが少なくなった通りに出ると、さらにアクセルを踏んだ。
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