清廉の聖女と革命の鐘
「そうだといったら、どうする?」
冷静沈着な声も、少しばかり強ばっているように聞こえた。
「例えば…そうですね、こちらには戦場の鬼神とうたわれる血の気の多い老体がいます。彼と彼の騎士団によってあなた方ヴァイスブルグは盛大に歓迎されるでしょう」
「ふっ。戦争も今までろくに経験したことのないような騎士団が我らに対抗できるとでも?」
男は灰色の双眸に勝者の余裕をみなぎらせ、唇の片足だけを引き上げてせせら笑っている。
あの老体が聞いたら一瞬で首を切り落とされそうですね。もちろん、比喩でも冗談でもなくね。
「あなた方は少々私たちを軽んじているようだ。まあ確かに、平和ボケした輩もいますけどね」
失笑とともに、ブルーノはクリスティーナを片手で深く抱え込み、素早く上体を右にひねり剣先からそれる。ついでに、相手の手首に向かって後ろ足で蹴りを繰り出した。
寸前で避けられたが、動揺したのか手から細身の剣が滑り落ちた。
「な、なに?」
先程と同様に片足で深く踏み込み相手との距離を一気につめる。男が慌てた様子で後退するが運悪く土から出た根っこに足を取られ尻もちをついた。
「それから私、見上げるより見下す方が好きなんですよね」
相手の喉元に剣先を向けながらブルーノは上品に笑った。月光に反射した剣が銀色に輝く。
「はははっ。貴様とは趣味が合いそうだな」
灰色の瞳に怒りを滲ませた男がブルーノを振り仰いだ。
ヒュ~ッと口笛がなった。
「お前すげぇな。よくお荷物抱えたままそんな器用なことができるな」
「彼女はお荷物ではありません。
言葉を慎め、蛮族どもが」
剣呑な光を帯びた眼孔が男を捕らえる。
「おお、怖い怖い」
「ふぅん、つまりクラウディオの言ったとおり、その子があの聖女様なんだね!へぇー噂に違わず美人さんだねぇ」
興味津々といった様子の男が不躾な視線をクリスティーナに送る。ブルーノの眉間にはさらに濃いしわが寄っていた。